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| 生まれて初めて飼ったイヌのお話。 |
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小学校低学年の頃、当時住んでいたマンションの近く、線路沿いの細い道で、私と姉は小さな子犬を拾った。クリーム色の長い真っ直ぐな毛が、痩せた胴体をさらさらと覆い、さらに小さな瞳までそれで隠れていた。MIXの女の子だった(当時は血統書付との区別もわからなかったけれど)。初めて見たとき、私は「おじいちゃんみたいな犬だな」と思った。 家に向かう私達の後を、おぼつかない足取りでヨタヨタとついて来るその子を、私達は見ないふりをする事はとてもできなかった。 子犬を抱いて家に戻ると、予想通り母の大反対の嵐。 「今すぐ、もといた場所に戻してきなさい!」 「だって、こんなに痩せてかわいそうだよ、死んじゃうよ」 「ダメなものはダメ!!」 しかし母には「生き物に無条件で好かれる」という天賦の才があるらしく、鬼のような形相(に見えた)の母をその子犬はうっとりと見つめ、母の膝の上によじ登り、そこでお腹を出してじゃれ始めた。母はほとんど無意識のうちに優しい笑みを浮かべてその子のお腹をさすり、はっと顔を上げて、しまったという表情をした。その視線の先にはもちろんニンマリと笑う私達姉妹の顔があった。 そういったわけで晴れて我が家には新しい家族ができた。 名前は「亜茶子」と付けた。これは当時、私達姉妹が好きだったお笑い芸人の「とんねるず」の歌から取ったものだ。 私達は亜茶子を妹のように想い、学校が終わるやいなや通学路を走るのももどかしく急いで家に戻り、時間を惜しんで遊んだ。 数ヶ月して成長した亜茶子は、よく鳴き、家の中を勢いよく駆け回るやんちゃな犬で、大きめの中型犬というところ。手狭のマンションで飼うのはご近所にも迷惑で亜茶子にとっても窮屈だから、母の実家の祖父の家に連れて行こうという話が持ち上がった。もちろん私達姉妹は嫌がったが、母の実家は群馬県の田んぼや畑に囲まれた場所にあり、広い庭もある。「毎日、山に散歩に連れてってやるかな」という祖父の言葉を聞き、確かに気持ちのいい場所で元気に走り回るほうが亜茶子らしいと思い、泣く泣く私たちは言うとおりにする事にした。 実際、群馬での亜茶子はとても生き生きしていた。人が好きで好きでしょうがなくて、近づく人は誰にでも飛びつき、すぐにゴロンとお腹を見せた。散歩のためにリードをはずすと嬉しそうに飛び上がり、すぐさま家の裏の畑の脇の道をかけ上がっていった。 飼い主の生活や周りの環境のためのルールやしつけは一切なく、ただ天真爛漫に生きる亜茶子を見るのが嬉しくて、私は休みのたびに電車で群馬へ向かった。 私が顔を見せるたびに亜茶子は狂喜乱舞し、ほとんど一日中ともに遊んで過ごした。 しかし私は亜茶子が自分より数倍のスピードで成長している事にその時はまだ気付かず、ずーっとこのままの日々が続いていくと思っていた |
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亜茶子を群馬に預けてから1年ほど過ぎたある日、祖父から慌てた声で電話があった。 「亜茶子がな、逃げたんよ」 「逃げた?!」 祖父いわく、数日前の朝、いつものように散歩に行こうと亜茶子が繋がれている庭に出ると、リードや首輪を残して亜茶子の姿が無かったという。 すぐにいつもの散歩コースや近所を探し回ったがどこにも見当たらない。 数日待っても帰ってこないので、我々家族に連絡してきたのだ。 「ひょっこり帰ってくるかもしれないし、おじいちゃん、毎日探しに行くからね」 「うん・・・」 祖父には、以前に私がお祭りの屋台で買って育てたヒヨコがりっぱな雄鶏になり、毎朝マンションで威勢よく鳴き始めたので慌てて群馬に預けたら、すぐに料理して食べてしまったという前科がある。今回もちらりと(もしかして・・)と頭をかすめたが、さすがに違うだろうと思い直して心の中で「ごめん、おじいちゃん」と謝った。 私達の願いもむなしく、亜茶子はすぐに帰ってこなかった。 でも必ずそのうち帰ってくるはずだと信じ、不思議と悲しい気持ちにはならなかった。 そして約半年後、待ちわびた知らせがやってきた。 「亜茶子が帰ってきたよ!」 「ホント!?ホントに亜茶子?元気?」 「元気だよ。でも、お腹が大――きくふくれてるさ」 何と亜茶子は妊娠しているという。人間のように、子供を生むために里帰りしてきたのだ。 そして亜茶子が戻って数日後には、8匹の子犬が誕生した。 私達姉妹はその知らせを聞いて、何だかとても感動して、顔を涙でぐしょぐしょにして抱き合った。 私は残念ながら誕生に立ち会う事も、子育てを手伝うこともできなかったけれど、近所に住む叔母が、亜茶子やその子供達の写真をまめに送ってくれたので、私と姉は写真を見るたびに興奮して騒ぎ、また嬉しくて泣いた。 ようやく群馬を訪れた時には、新しく生まれた8匹のうち7匹は新しいおうちに貰われていき、亜茶子とよく似た毛色の「マリー」と名づけられた子は祖父が育てると言って残されていた。 亜茶子は私を見つけると相変わらず嬉しそうに飛び上がり、私が駆け寄るとすぐにお腹をだして撫でろとせがんだ。ぐしゃぐしゃとしばらく撫でてから、そばにいるマリーを抱くと、亜茶子は誇らしげな表情で私を見つめた。 「本当にすごいね亜茶子、がんばったね」 その優しい瞳は、線路の脇の道で出会った時や、マンションで姉妹のようにじゃれて遊んでいた時と何も変わらない。しかしマリーの体を舐めるしぐさや、時折遠くを見つめる表情がとても大人に感じられて、私は心が何だか少しざわざわしたものだ。 驚く事に、亜茶子の旅は1度では終わらなかった。 マリーがある程度成長したのを見計らい、また首輪をはずして旅立ってしまった。 そしてやはり半年後に里帰りをして、コロコロとしたぬいぐるみのような愛らしい子犬たちを生んだ。 その旅を繰り返すうち、亜茶子はますます逞しい肝っ玉母さんになり、亜茶子の子を飼う親戚や近所の家が増えていった。亜茶子の子供はみな可愛らしく、愛想がいいので祖父が貰い手に苦労する事はなかった(亜茶子の男を見る目もなかなかという事なのだろう)。 そして4度目の旅から、亜茶子は戻っていない。 今でも旅先や街中でクリーム色の毛のおじいちゃんみたいな犬を見かけると、亜茶子かもしれないとじっと見つめてしまうのである。 今でも群馬には亜茶子の子や孫達はたくさんいて、元気に暮らしている。 |
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MORE MIKI : "AS IT IS..." |
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| side story vol. 1 |
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